zurezuregusa

徒然草のように徒然なることをずれた視点からお送りするブログ。ぐさっと刺さってくれれば幸い。

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

★★★★★(10/10点)

監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ

出演:マイケル・キートンエドワード・ノートンエマ・ストーンナオミ・ワッツ、ザック・ガリフィナーキス、アンドレア・ライズブローエイミー・ライアン、リンゼイ・ダンカン


※ネタバレあり


アカデミー賞の作品賞を取っているのにいまいちレビューの評価が高くないから地雷かと思っていたが、なんのことはない、傑作じゃないか。「どうやってワンカット風に撮っているのか」なんてレビューも見かけたが、静物だけのシーンや接写で暗くなるシーンでカットしているだけだろう。そんなことはどうでもいい。それでもワンカットが膨大な台詞量になるので俳優陣には頭が下がるが。そのワンカットに見える演出もすごいが、もっとすごいのは演技と脚本だ。

特にマイケル・キートンエドワード・ノートンエマ・ストーンは出色だ。リーガンとマイクが言い合うシーンや二人の初演技セッション、マイクとサムのやり取りなど。引き込まれるというんだろうか、こっちまでその会話に参加している気になる。だから嘘をつかれると、やられたという気分にまでさせられた。そりゃマイケル・キートンエドワード・ノートンアカデミー賞候補になるわという話だ。エマ・ストーンアメイジングスパイダーマンではただの可愛い子って感じなのに、この作品では大化けしている。

脚本に関しては、まず台詞運びの上手さが挙げられる。本当にそうしゃべるであろう台詞のチョイスと、短い台詞の掛け合いでリズム良く話が進むのが面白い。劇中劇も、何度か同じシーンを流すことで台詞を覚えさせ、ラストではその意味が非常に違った意味に感じられてくる。バードマンからの脱却のために演劇界に進出したのに素人から聞こえるセリフは「バードマンだ!」ばかりであったり、SNSをひたすら嫌悪するリーガンが逆にそれで取り上げられて話題になったり、たまたまの自殺騒動が酷評された記者からの絶賛を産んだり、皮肉が効いている。何より、この作品をマイケル・キートンが演じていることが一番の皮肉だろう。皮肉もかなり笑えるが、単純にブリーフ一枚でタイムズスクエアを闊歩するところからの流れが一番笑える。アカデミー賞でもパロられるわけだ。

初めのカットは空中浮遊しているところから始まる。つまり、リーガンの気が狂っているであろうことが示唆されている。それはプロデューサー視点からリーガンを見たシーンでほとんど真実だと語られるため、終盤にかけて第三者としてそれを見させられる観客は自殺してしまわないか延々とヒヤヒヤさせられる。アベンジャーズやマーティン・スコセッシメグ・ライアンなど実名がポンポン出てくることで、異世界のことではなく同じ世界のことだと感じるような没入感も促しているのだ。それゆえリーガンが飛び降りるシーンで、本当に飛び始めたので「あぁ、もう本当は死んでて夢オチエンドか」とさえ思った。その辺りはかなり『ブラックスワン』と似通っている。ただ、『ブラックスワン』が精神錯乱だけを主題としたのに対し、こちらはそれに加えてブロックバスター映画への批判、SNSへの嘲り、『TED』的なメタ構造による面白さなどたくさんのものをテーマに取っている。その点で『ブラックスワン』より勝っており、その多くの面で構成されていることがこの映画の面白さだと感じる。

最初に触れたワンカット風の撮影技法は「面白い」というだけのものであるが、時間の経過をシームレスに繋げ違和感なく見せるのには驚く。かなり計算されているように思う。直接ツッコまない、観客にあえて語らせるボケなども観客が第三者として近くで見ているように感じさせるためのものであろう。ただ、唯一一人称に変わるシーンがある。それが、銃を持ったリーガンが舞台へ向かうシーンだ。銃を持った時点で、コルクが云々というのはこのための伏線かと思い知るのだが、もう観客はそのクライマックスを思い描いてしまう。そして、さらにそれが第三者視点ではなく、FPS的な対話者しか見えない状態になった時、そのクライマックスへの期待と、相反する絶望を自分のものとして感じる。このヒリヒリさせるような演出をここで持ってくるイニャリャトゥ監督がニクい。まさしく監督賞にふさわしい作品だ。