zurezuregusa

徒然草のように徒然なることをずれた視点からお送りするブログ。ぐさっと刺さってくれれば幸い。

チャッピー

『チャッピー』

★★★☆(7/10点)

監督:ニール・ブロムカンプ

出演:デヴ・パテル、ヒュー・ジャックマン、ニンジャ、ヨ=ランディ・ヴィッサー、ホセ・パブロ・カンティージョ、シガニー・ウィーバー


※ネタバレあり


様々なレビューで『第9地区』との比較、そしてこれが駄作であるという論調を見かけるがそんなに悪くなかった。どうしてもヨハネスブルグという特殊な舞台と最近珍しいSFを前面に押し出した作風がそうさせるのだろうが、『第9地区』と遜色はなかったと思う。ただ、「脚本はもう少し練れたかな」

という感はある。

AIロボットがギャングに育てられるというストーリーは非常に面白い。しかも一方はいっぱしのギャングに育てようとし、もう一方は本当の息子のようにロボットを愛でる。演じる「ダイ・アントワード」の二人、ニンジャとヨーランディは出色だ。特にYOUのようなハスキーボイスのヨーランディはすごく魅力的。あの独特のヘアースタイルやアジトの内装のカラフルさ、謎の模様などセンスがぶっ飛んでいて最高だった。犯罪はしないが「おネンネ」はさせるという絶妙なポリシーを持ったがゆえ、終盤ヴィンセントを殺さず許す。そのシーンはなんでもやられたらやり返す昨今の風潮に一石を投じる。そんな「本気で怒っているが許す」心をもっているのがチャッピーなのだ。その辺りの行動哲学が類型的でないのが良い。

だが、結末につれ明らかになっていく別テーマ「人格の保存、移し替え」に関しては生煮えであったように感じた。『トランセンデンス』でも扱われたテーマだが、オチとして使うことありきで脚本に盛り込まれているため違和感がすごくある。そこには葛藤があったり障害があって然るべきなのに、いとも簡単に乗り越えてしまうからだ。新たな倫理観は問題提起をして観客に考えさせた上で答えを提示した方が良いのではないか。観客側は急に起こったことについて行くのでやっとで、その是非まで頭が及んでいないと思う。それ故、現在ではまだあまり受け入れられない倫理を突きつけられた際、否定的な感情つまりつまらないと感じてしまう。もったいない。もう少しよく料理すれば、もっと面白くなったはずだ。例えば、チャッピーがディオンを助けてバッテリー切れで死ぬ、ニンジャがヨーランディのメモリも廃棄してしまう、など。「無敵のチタン製」だったはずのチャッピーが死に、本当なら脆いはずの人間が生き延びる。そのことによる新たな死生観の提起。ニンジャがチャッピーを諭して「あいつは次の場所へ行ったんだ」「どこ?」「心だ」。そんな綺麗なエンディングで不死と死を考えさせる。その方が心に残っただろうと考えるがいかがだろうか。