zurezuregusa

徒然草のように徒然なることをずれた視点からお送りするブログ。ぐさっと刺さってくれれば幸い。

セッション

『セッション』

★★★★★(10/10点)

監督:デイミアン・チャゼル

出演:マイルズ・テラー、J.K.シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング、クリス・マルケイ、デイモン・ガプトン


※ネタバレあり


『バードマン』を見た翌週にこれを見ると、もうなんか永久に洋画には勝てない気がしてくる。『12歳のボクが大人になるまで』『アメリカン・スナイパー』『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』『バードマン』と今年の賞レースに絡んだ作品は割と見てきたが、また名作に出会ってしまった。

冒頭、大きな音に驚かされる。いつもより大きなボリュームに文句の一つも言ってやりたかったのだが、確信犯だった。そこからずっと鼓膜の震えが心臓も震わせる。全編なりっぱなしのドラム、スネア、シンバルが首を振らせ、指を叩かせ、貧乏ゆすりさせる。先日『マエストロ!』とかいう同じく楽団を舞台にしたクソ映画があったが、足元にも及ばない。靴についた泥レベルだ。

フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹をモデルにしたようにしか見えないフレッチャーにはカリスマ性を感じる。戸塚ヨットスクールのようなものだ。無慈悲な悪は善良な市民には止められない。それと戦えるのは覚悟のある若者だけだ。

主人公こニーマンは序盤、ただ殴られているだけのヘタクソ、負け犬だった。しかしフレッチャーに抵抗し始める。俺は偉大な音楽家になるんだ、と。家族は彼に理解がない。彼女も彼には邪魔である。何もかも捨て、盲信し猛進し妄信するニーマン。すぐ地位が揺らぐようなこのバンドでの主演者をなんとしてでも固めるために、血が出ても、汗が吹き出しても、体液が吹き出しても彼は叩く。フレッチャーにすら食ってかかる。ニーマンが事故る辺りから観客はどう結末を迎えるのか、真っ暗な洞窟の中をトロッコに乗せられた気分だ。タッチよろしく「実は鬼軍曹は生徒を思ってのことだった」。そんな帰結を予想して迎える「私をナメるなよ」のセリフ。「スカウトは下手うった演奏家の顔を忘れない」とまで言われた後での曲目の急な変更が行われ、その状況にニーマンも一度は挫折する。しかし、そこで彼は思い出すのだ。「挫折した者だけが立ち上がれる」と。チャーリー・パーカーのように変貌を遂げた彼はついにフレッチャーを無視する。必要としない。しかし、一方でそれに飲み込まれず、戦うフレッチャー。そんな状況が長く続き、そして、2人が笑みを浮かべ融和した時終幕を迎える。最高の筋書きだ。二度のどんでん返しから迎えるラストは観客を滾らせる。夢を持つ若者全てにオススメしたい檄作。